HOME  >  WORLD LIVING  >  ボタニカルがキーワード、クラフト・ジンの世界|WORLD LIVING メルボルン編 vol.12

ボタニカルがキーワード、クラフト・ジンの世界

小林夕子 
オーストラリア・メルボルン在住会社員。アメリカと日本で幼少期を過ごした後、日本では映像関連会社に勤務。現在はメルボルンで通訳・翻訳業務に従事している。余暇の楽しみは映画館、美術館、図書館、マーケット巡り。

世界中の人々の暮らしがガラっと変わってしまった今日この頃、皆さんはいかがお過ごしですか?連日の報道で心がもやもやしている方も多いのではと想像しますが、私も決して例外ではありません。
やはり、そこに触れずに本題に入るのも、今の状況を踏まえるといささか不自然な気もするので、さらっとオーストラリアにおける新型コロナウイルス対策の現状をご紹介したいと思います。

まず、オーストラリアで初の感染者が確認されたのは2020年1月下旬。それからしばらくはごく普通の生活を送っていたのですが、3月に入ってその状況は一変しました。

3月上旬から感染者が前日比で2倍のペースで急増したオーストラリア。これに危機感を覚えた政府は、感染者数を抑えるべく、公衆衛生キャンペーンや前例のない財政政策、渡航制限を次々と発表していきました。
3月中旬にはオーストラリア全国民の出国と、外国人の入国(永住者は除く、など一部例外あり)が全面禁止に。オーストラリアは史上初めて鎖国状態に入ったのです。

この頃から徐々に屋内・屋外の集まりにも制限がかかるように。しかし36°Cの夏日に我慢しきれずビーチに集ってしまったオージーに激怒したスコット・モリソン首相は、3月下旬に事実上の外出禁止令を発表(スーパーや薬局、銀行、レストラン・カフェはテイクアウト限定で営業)、今もなお続いています(2020年4月15日現在)。

前置きが長くなってしまいましたが、今回お届けするのは、まだ外出禁止令が敷かれる前のお話。ソーシャル・ディスタンス(人と距離を置く)を保つようにと言われ始めた頃、「郊外に行けば人との距離は保てるのでは…?」と考えた私と友人たちは、メルボルン中心街から車で1時間のところにあるヤラ・バレー(Yarra Valley)のクラフト・ジンの蒸留所に行ってきたので、そのときの模様をご紹介します。

オーストラリアのクラフト・ジン・ブームの火付け役

ワインの産地として有名なヤラ・バレー。週末の日帰り旅行先としてメルバーニアン(メルボルンっ子)にとても人気があります。

この日、快晴に恵まれたヤラ・バレーは、暑過ぎず風もない最高の天気でした。

今回のお出かけを企画した当初は「ワイナリー巡り!」と友人たちと盛り上がっていたのですが、いろいろと調べてみると、ヤラ・バレーにはたくさんのクラフト・ビールやサイダー(日本では「シードル」と呼ばれる、りんごから作られるお酒)の醸造所、ジンの蒸留所が密集していることが判明したのです。

2017年頃からイギリスを中心に世界的なブームとなっているクラフト・ジン。メルボルンのバーでもここ数年、一昔前より格段にオシャレにアップデートしているクラフト・ジンをよく目にするようになり、その存在がずっと気になっていたのでした。

中でも、オーストラリアにおけるクラフト・ジンの火付け役ともいわれる、オーストラリア独自のボタニカル(植物)を使用した「フォー・ピラーズ(Four Pillars)」。その蒸留所がヤラ・バレーにあるとわかるや否や、全員一致で行き先はここに決まったのです!

オーストラリア産ワインの代表的なブドウ品種であるシラーズがジンに大変身。「ブラッディー・シラーズ・ジン(Bloody Shiraz Gin)」はフォー・ピラーズの売れ筋商品のひとつ。

自家製ハンド・サニタイザーでおもてなし

雲ひとつない快晴に恵まれた日曜のお昼に到着した私たち。ウワサでは週末は混んでいて入れないときもあると聞いてのですが、今回は新型コロナウイルスの影響もあってか、そこまで混んでいませんでした。

大型倉庫のような店構えは、のどかな街の目抜き通りの中でも、一際目立っていました。

並んでいるときに、陽気な店員さんから試飲や蒸留設備の見学などオプションの説明を受けます。その後、彼が私たちの手に吹きかけてくれた自家製のハンド・サニタイザー(消毒液)がすごかった!
この頃すでにハンド・サニタイザーは入手困難となっていたオーストラリア。そのため、フォー・ピラーズではジンの製造過程で生まれる余剰アルコールにユーカリ・エキスとアロエを混ぜて、自家製サニタイザーを作ってしまったのです。

それを購入したいというお客さんは後を絶たないものの、一般販売はせず、あくまでも蒸留所内で利用するために作り、残ったものは地元の教会や老人ホームに寄付しているのだとか。「ここフォー・ピラーズでは何ひとつ無駄にしない、エコな製造現場が自慢なんだ」と、自信に満ちた表情で語る店員さんが印象的でした。

入り口で対応してくれた陽気な店員さん、実はボランティア消防士だそう。外見も内面もイケメンって、できすぎです。

ソーシャル・ディスタンスを守りながら営業中

試飲代金(1人10豪ドル、約670円)を支払って店内へ。無機質な雰囲気ながらグリーンが温かみを添える内観、背の高い棚に並べられたフォー・ピラーズの商品ラインナップがまず目を惹きます。

店内はそれほど広くありませんが、天井が高いせいか、はたまたソーシャル・ディスタンスを保つために余裕を持ってお客さんを座らせているせいか、狭さを感じさせません。

カメラを向けた瞬間に、お茶目なリアクションをしてくれたバーテンさん。真っ昼間からめちゃくちゃ楽しそうにカクテル・シェーカーを振っていました。

席で待つこと約30分。横のお客さんには3種のジンのテイスティング・セットが運ばれてくるのに、私たちは放置…。「もしかしてバーに注文に行かないといけないの…?」とソワソワしてきた頃、テイスティング・カウンターに集まるよう声がかかりました。

今回テイスティングした5種類のジンの前には、原材料として使われているスパイスやボタニカル・ハーブも一緒にディスプレイされていました。窓の向こうは蒸留設備。

蒸留設備も見学可能でしたが、万が一ウイルスを持ち込んだらいけないと思い、今回は見送ることにしました。

テイスティングは通常10名以上のグループで実施しているそうですが、ソーシャル・ディスタンスを保つため、この日は1グループ5名までに。そのため、案内されるまでに時間がかかっていたんですね。

ジン・テイスティングにいざ初挑戦

そして待ちに待ったテイスティングがスタート!私たちのグループを担当してくれたのは、真っ赤な口紅がトレードマークのリジーさん。まずジンのテイスティング方法から、丁寧に説明してくれました。

各商品で使われているスパイスやボタニカル・ハーブの香りも楽しみました。

フォー・ピラーズの商品の中でもアルコール度数が一番低いもので37.5%と、ワインと比べてもだいぶアルコール度数の高いジン。ワインのように口の中で空気と混ぜてしまうと、たちまち口内にアルコールの刺激が充満し、むせてしまいます。そのため、少量を口に含んだ後、舌の上で30秒ほど「寝かす」のがコツだとか。

ジンをストレートで飲んだことがなかった私。「寝かすって一体どういうことだろう…?」と思いながら、舐める程度の少量を口に含むと、トロ〜リとした舌触りに驚き。
「なるほど、舌に絡みつくようなオイリーな質感だから『寝かす』ことができるんだ」と感心しているうちに、あっという間に30秒が経過しました。

その後、ゆっくりとジンを喉に滑らせながら、鼻から息を吐いていくと、アルコールの角がとれて香りが解き放たれていくとの説明があり、言われた通りに喉に落とし込んでいくと…スピリッツ特有の焼けるような感覚はほとんど残っていませんでした。

ただ、テクスチャーばかりに気を取られ、香りを十分に楽しむ余裕がなかったなぁと思っていると、私の試飲グラスに残っていたジンに、スポイトで数滴の水を垂らしたリジーさん。
「さあ、同じ要領で飲んでみて!」と勧められるがままに2度目にチャレンジすると、あら不思議!先ほどと同じジンとは思えないほど、一気にスパイスやボタニカル・ハーブの香りが解き放たれ、舌触りもトロトロからサラサラに変化していたのです。

数滴の水でこれだけ化けるなんて…!これだからお酒のテイスティングはやめられません。

シグネチャー商品「レア・ドライ・ジン(Rare Dry Gin)」は9種類のボタニカル・ハーブを調合。オーストラリアの植物であるレモンマートルとタスマニア・ペッパーも含まれているので、旅行土産に喜ばれそうですね。

この日は売れ筋の商品5種類を試飲させてもらったのですが、使われているボタニカル・ハーブそのものの香りを楽しむことができたり、それぞれが誕生するまでのストーリーを披露してもらったりと、なんとも充実した40分でした。
ただ、後半はほろ酔い気分になってしまったため、せっかくリジーさんが教えてくれたジンの豆知識を記憶に留めておくことができなかったのが唯一の心残り。仕方がないので、また行くしかありませんね!

こちらがお土産ショップに並ぶ、試飲した5商品。1本購入すると試飲代が差し引きされるという合理的なシステム。

自分へのお土産として、テイスティングで一番気に入ったアルコール度数45%の「バーテンダー・シリーズ(Bartender Series)」を購入しました。
口に含んだ瞬間にアジアン・スパイス(山椒と、豪州ビャクダン科の木の実であるクワンダン)の香りが飛び込んできますが、後味はシトラス系(グレープフルーツ、タンジェロ、りんご)ですっきり。

定番のジントニックでいただきながら執筆中。

献身的なスタッフたちとまた会える日まで、今はおとなしく

ジンのおいしさもさることながら、私がその日会ったフォー・ピラーズのスタッフ全員が心から楽しそうに、自信と誇りを持って仕事をしている姿はとても印象的でした。
リジーさんに至っては「本職はエンターテイナー?」と思うほど饒舌かつ快活で、お客さんをとことん楽しませようという思いがビシビシと伝わってきたのです。

テイスティング中もすかさずカクテルのマル秘レシピをシェアしてくれたリジーさん。相当なお酒好きと見ました。

それからたった数週間もしないうちに、オーストラリアの状況は劇的に変化しました。オーストラリアの国境は閉ざされ、公共施設をはじめ、カフェやバー、レストランが営業停止になるなんて、このときは誰も想像できなかったはず。

フォー・ピラーズも例外ではなく、私たちが訪れた数日後に、一時的にその扉を閉めることに。連日ニュースで流れる失業者の報道を見るたびに、「フォー・ピラーズのスタッフは大丈夫だろうか…?」と心配しています。

ただ、ほかのジン・メーカーと手を組んで自家製ハンド・サニタイザーの寄付に取り組んだり、京都蒸留所とコラボ開発したジンが発売になったりと、こんな状況でも前向きなニュースが後を絶ちません。
なのできっと、次に訪れたときもきっとリジーさんたちに会えると信じています。

その名も「チェンジング・シーズン・ジン(Changing Season Gin)」。ラベルの「春夏秋冬」にもあるように、オーストラリアでは漢字ロゴがクールだとされており、人気です。

その日が来るまで、今の私にできることは、外出を控えること。フォー・ピラーズのジンという強い味方がいれば、そんな生活も悪いものではありません!

今回紹介した場所
フォー・ピラーズ(Four Pillars Small Australian Distillery)
2A Lilydale Rd, Healesville VIC 3777 Australia
https://www.fourpillarsgin.com.au
https://www.instagram.com/fourpillarsgin/ 

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