HOME  >  WORLD LIVING  >  コレクター向け現代アートフェア「Collect 2020」― 今のアートトレンドとは?|WORLD LIVING ロンドン編 vol.23

コレクター向け現代アートフェア「Collect 2020」― 今のアートトレンドとは?

宮田華子 
ロンドン在住ライター。メディア製作会社に勤務後、2011年からフリーランスのライターに。デザイン、アート、建築、クラフト等を得意とし、文化&社会問題について日本の媒体に執筆。編集ユニット「matka」として、ウェブマガジンも運営している。2015年にロンドンで小さなフラット(マンション)を購入。日本とは異なる一筋縄でいかない「イギリス・家事情」に翻弄される日々を送っている。 
ウェブ:http://matka-cr.com/ 
インスタグラム:https://www.instagram.com/hanako_london_matka/

新型コロナウィルスが各国で猛威を振るっています。皆さまが無事に過ごしていらっしゃることを祈りつつ、この原稿を書いています。

事実上のロックダウン in イギリス

イギリスでは3月16日に行動制限策が発表されました。これにより多くの会社が自宅勤務の措置を取り、3月20日(金)を最後に学校はすべて閉鎖。3月23日(月)には事実上のロックダウン宣言がされ、さらに厳しい行動制限と「とにかく家から出ないで」というジョンソン首相のメッセージが放送されました。

3月23日の首相メッセージ。このときは「ロックダウン」という言葉を使用しなかったのですが、結果この日が「事実上のロックダウン」と認識されることになりました。

イギリス政府は現在毎日会見を行い、状況を発表しています。これが大変分かりやすく、現状を毎日把握できるので助かっています。

3月25日からは会見場に記者は来ず、毎日選定されたメディアがビデオで質問する形になりました。

3月16日前後に一時スーパーから食料やトイレットペーパーがすっかりなくなってしまいました。しかしこの状態は1週間で解消しました。

イギリス政府は「Stay Home, Protect the NHS, Save Lives(家にいてください。医療システムを守りましょう。そうすることで人命を救えます)」をスローガンに、下記を一貫して訴えています。

●必須時以外は外に出ない(移動の制限)
●同居人以外との接触を徹底的に避ける(同居していない家族にも会ってはいけない。特に老人には会わない)
●新型コロナウィルスに感染したかも?と思ったときは以下の期間自主隔離をする。
〇単身居住者の場合:最低7日間
〇2人以上で居住している場合:最低14日間、同居人全員で自主隔離する
ほとんどのケースはこれで回復するが、症状が著しく悪化した場合は政府指定の電話番号に電話を掛けて指示を受ける。

こうしたガイドラインが繰り返し繰り返し訴えられているので、何らかのメディアを見ている人は皆、頭に刷り込まれています。

その後ジョンソン首相が感染し、現在入院中です。他の大臣やアドバイザーも感染や家族の感染による自主隔離に入ったりしていますが、政府会見は毎日いずれかの大臣と医療関係者が登壇して継続中です。

スーパーや薬局は感染を防ぐために入店人数を制限。2m間隔で並べるよう、道路にテーピングがされています。しかし今は皆時間をずらして上手に買い物するようになっているので、あまり並ぶこともなくなりました。

医療や福祉、食品、配送、郵便、警察、インフラ関係等々、現在も「必須職」の人達が毎日出勤し、最前線で働いています。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

私にできることは「出来るだけ外に出ない」ことだけです。ですので買い物に出る回数もできるだけ減らし、日々を静かに過ごしています。

コレクター向けの現代アートフェア「Collect 2020」

3月16日以降、順次イベントや展覧会の一時中止、延期、キャンセル等が発表されました。現在、集会やイベント等の開催は全面的に禁止(自粛ではなく「禁止」)です。

楽しみにしていた展覧会やイベントが中止・延期になってしまいましたが、毎年2月末~3月頭に開催されるアートコレクター(収集家)向けの現代アートフェア「Collect」は感染拡大が本格化する前だったので、通常通り開催、見に行くことができました。

昨年までのSaatch Galleryから会場を写し、今年はSomerset houseで開催。1776年建築の、ネオクラシックの荘厳な建物です。

Somerset houseは普通のミュージアムとは違い、細長い回廊、そして天井の高いたくさんの部屋が連なる宮殿型の建物です。広い場所を区切ってブースに分かれているのではない、趣のある展示法が今年の発見でした。

階段&天井
階段&天井

美しい建物にうっとり。建物の撮影だけでも丸1日いられそうです。

プレス

取材者向けブリーフィングもCox Londonのオブジェが美しくディスプレーされた、素敵なお部屋で開催。

一般の住宅では考えられない豪華さではあるのですが、それでも1つ1つの部屋に窓やマントルピース(暖炉)がついているので“家感”はあります。「こんな風にアート作品を自宅に応用したら、素敵」とイメージをしながら見る楽しさは新鮮でした。

暖炉前

Hans Vangsøのセラミック作品。ロンドンではほとんどの地域で暖炉が使用不可ですが、マントルピース(暖炉の枠部分)を置いたままにしている家は多く、インテリアとしてわざわざ設置する人も多いです。こんな風に暖炉前スペースを使うのも素敵です。

暖炉ガラス

London Glassblowingのブース。マントルピースの上に美しくガラス作品を展示。

このフェアは「現代アートを収集している人」が見に来て、その場で購入する展示会です。一部の招待アーティストを除き、ギャラリー単位で出展しています。

作品タイトル&作家名のプレートに値段が明記されている作品もたくさんあります。基本は本気のアートコレクターを対象にしていますが、展覧会として見に来ている(私のような)アート&デザイン好きまでさまざまな人が来場します。

購入済となった作品は横に赤いステッカーが貼られますが、購入者への配送は後でギャラリーが行うため最終日まで作品を見ることができます。コレクターにとっては「買う」だけでなく「好みのアーティストの発掘の場」でもあるのです。

赤ステッカー

ステッカーの赤い色がうまく出ていなくて分かりづらくてごめんなさい。丸いステッカーが貼られているのは、Annie Turnerのはしごをモチーフとした「Tide Line Ladder」(左上の壁に展示)。横に並ぶ作品も彼女の作品です。

トレンドは「自然」「植物」「環境」

「現代アート」というくくりはあるものの、毎年行くたびにトレンドの変化を感じるのがこのフェアの楽しみの1つです。

今回は「自然」「植物」をテーマにした作品が本当に多かったと感じました。

花

本物の草花のように見えますが違います。蜜蝋で作られた草花なのです。あまりの完成度と美しさに、多くの人が顔を近づけて見つめていました。By Annette Marie Townsend

現在アートだけでなく、デザインやインテリアでも「自然」はトレンドですが、これは人々が日常的に環境問題を意識するようになったことと関係があるのかも、と私は思っています。今まで以上に自然に対する憧憬と意識の高まりが反映しているのかもしれません。

断片

「In our hands, three forments(私たちの手の中、3つの断片」by Claire Malet

環境問題はすべての産業が取り組む共通のテーマですが、ギャラリー「Ruup & Foam」はサステナブルアート作品のみを集めた展示を行い、話題でした。環境を意識した作品は多いものの、見せる側のテーマとしての「環境」は興味深く、今後浸透していくように思います。

邦子さん

友人のアーティスト 前田邦子さんの作品。再生紙に柿渋を塗布して強度を高め、レーザーカッターで切りこみを入れて形作る作品。2つの作品、どちらも期間内に「購入済」となりましたが、1作は偶然にも私が見てる目の前で売れました。コレクターの直観力と決断の早さを間近で見て、圧倒された瞬間でした。

個性を打ち出すことの難しさ

今回、特にセラミックで製作した植物をモチーフにした作品が多かったことも印象的でした。

ケイティ

by Katie Spragg 石の割れ目から植物が伸びる、繊細で温かな作品。

セラミック1 & セラミック2

左:by Mart Schrijvers作。右:by Vanessa Hogge作。

アーティストたちのインスピレーションが先なのか、トレンドが先に生まれるのか、その両方なのか? 社会の中で生きていれば、その時代の空気感は皆が共有する経験です。作る側、見る側、買う側の趣向が合致しなければ作品は売れません。ですので、ある程度類似性の高い作品が生まれるのは当然のことなのだと改めて感じました。

壁1&2
壁1&2

上:by Klari Ries 下:by Myung Nam An

↑こちらの2つの作品も、同じフェア内で見たこと、壁のオブジェであること、そして色味の点から、良い意味でお互いを彷彿とさせる作品として私の記憶に残っています。質感の違いをより鮮明に感じました。

韓国ギャラリーの台頭

そしてもう1つ強く感じたのは、韓国のギャラリーの元気さです。日本人を含むアジア人アーティストの作品は多く展示されていますが、イギリスや欧州のギャラリーですでに扱われている作品がほとんどです。海外ギャラリーの出展としては、韓国が1番多かったのではないか?と思うほどでした。

ざる

多くの人が足をとめていた、直径1m以上あるSinjeong Seoの巨大な竹編。今回Collectに初出展したソウルのギャラリー「Gallery LVS & LVS Craft」のブースより。

ノリゲ作品(右)&ノリゲ(左)

韓国伝統の装身具「ノリゲ」(写真左)製作者パク・サンキョンとアーティストのシン・イエソンのコラボで生まれたオブジェ作品。昨年に続き2度目のCollect出展だったソウルのギャラリー「Gallery Wanmul」のブースより。

どちらも韓国伝統の技法をフィーチャーしている作品ですが、今回出展していたギャラリーが「韓国らしさ」ばかりを押していたわけではありません。しかしたくさん作品を見たのに、私にとってもっとも印象だったのがこの2作品だったことには少し意味を感じます。やはりどこか「韓国らしさ」を感じる作品の方が私を含めた「海外にいる人」にとってキャッチ―なのかもしれません。

日本のアート作品をイギリスを含めた日本以外の国で見るとき、あまりに日本色を打ち出していると「オリエンタリズムだけを売りにしている?」とちょっと皮肉めいた気持ちになる場合もあります。しかし逆に「こういう見せ方があるのか」と新鮮に感じる作品もあります。

「どの層に訴えるか?」を考えた上での作品選定と展示法がギャラリストの腕の見せ所です。その意味において、多くの韓国ギャラリーは素晴らしかったです。

スペースを借りているのはアーティスト本人ではなくてギャラリーです。コンセプトがいくら立派でもギャラリーは売れないと商売になりません。このフェアで展示されている作品はギャラリストの厳しい目で選定された「選ばれた作品」です。

毎年通っていますが、このフェアに来ると現代アートの現在を肌で感じ、日々生まれるアーティストの創造性とアイデアのすばらしさに心を掴まれます。

今回も本当に満たされた気持ちになりました。帰り道の空も美しく、何だかほろ酔いのような気持ちで駅に向かい、帰途につきました。

空

Charing Cross駅までを、良い気持ちでフラフラと歩きました。

しばらくこういったフェアやエキシビションはお休みです。ちょっと寂しいですが、今までに見たあれこれを、いまこそ家での生活に生かしたり応用する時なのだと思います。

またデジタル時代ですから、家の中で楽しめるコンテンツも百花繚乱。家籠りの日々はまだまだ長そうですが、楽しくやれそうです。

敵(=ウィルス)は見えないだけにやっかいです。皆さま、どうか気を付けてお過ごしください。皆で助け合い、この時期を無事に乗り切りましょう。

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